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自由という欠落
第7章 必要のないもの
* * * * * * *
心陽とのはなが関わる可能性は、低かった。
よその学部であるのは大きいし、本来、心陽は今、こうも鬱々と冬休みを無益にやり過ごすこともなかったはずだ。
のはなに巡り逢わなかった可能性。
高等部から連んでいた友人らの輪にこもったまま、大学生活も変わり映えなく送っていた可能性。
あれこれと思い巡らせるのは容易くても、いかんせん鮮やかに押し寄せるのは、のはなのいた日々の記憶だ。明るく、心陽にとって都合の良い来し方ばかりが浮かぶ。
交わした言葉、出かけた場所、心陽の声に耳を傾けて、心陽に楽しそうに話すのはな。…………
心陽には、のはなのいない日々の方こそあり得なくなっていたのだ。
婚約者の存在を知ったあとも、何も知らない顔をして、のんべんだらりと、心陽はのはなと友人関係を模倣している。冬休みに入っても、会いたいのはのはなだけだ。恋愛にかまけて友情をなおざりにする性分でもないくせに、心陽は香菜らの誘いを受ける度、それらしい理由をこじつけて、出かけていかないでいた。
「いつまで僻んでるの」
陽子が、クローゼットを漁りながらぶっきらぼうに口を開いた。
電話は耳に当てていない。陽子は心陽に話しかけたらしい。
「僻んでないし」
「なら、帰るなり出て行くなりしてくれない?今週に入ってから、ずっとその調子じゃない」
「お姉ちゃんこそ朝帰りはやめて。妹が泊まりにきてるのに」
「貴女の傷心に付き合っていられるはず、ないでしょう」
陽子は、どこからか聞こえるクリスマスソングに相応しいほどめかしこんでいた。今の彼女を引きずり出して、インテリジェンスを絵に描いたような陽子しか知らない彼女の恩師や、職場の教員らに見せてやりたい。
もっとも、心陽にも陽子に負い目はある。
実家にいればそれなりに私室を出ねばいけない。家事の手伝い、両親とのコミュニケーション、陽子を除く家族揃っての夕飯を、今の心境でこなすというのは至難の業だ。陽子が心陽を追い出さないだけ救いである。