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自由という欠落
第7章 必要のないもの
陽子の待ち合わせの相手が現れた途端、心陽は条件反射的に死角を探した。ピークはイヴでも、クリスマスも浮かれた人間でひしめいている。陽子達が心陽に気付くはずないのに。
「こんにちは、陽子さん。お洒落ですねー!デートじゃないんだし、普段着で良かったのに」
「そういうまひるちゃんこそ、可愛いわ。貴女こそ普段着で良かったのよ」
「私はこれが普段着です」
「あら。それなら私も、失礼な格好は出来ないでしょう」
ねっとりとした甘い蜜を交換し合ってでもいる顔で、互いを褒める陽子とまひるは、心陽からすればデートで待ち合わせた恋人同士だ。
イヴを佳乃と過ごしても尚、互いを供給し足りなかったばかりに、別れて数時間後にまた顔を合わせる必要があったのではなかったのだ。今日の陽子が所望したのはまひるだった。
昔を懐かしむための会合、旧知の仲、否、ふしだらな娯楽を共有してきた共犯者を気取りながら遠ざかっていく二人。心陽は彼女らの追跡をやめた。
心陽は愛を信じている。唯一無二の、その人でなければいけない愛。その人でなければ自身の空疎は満たされない愛。
陽子は、心陽が求めても届かなかった愛に潤っていながら、自身の幸福を一笑に付して、かつての生徒に手を出しているのだ。いつから。少なくともゴールデンウィークは既に、彼女達はそうした関係だった。夏期休暇中も、佳乃が就業しているはずの時間、陽子は彼女らしからぬ朗らかな顔でLINEを打って、出かけていった。何も気づかないでいるのは、佳乃とのはなくらいではないか。