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自由という欠落
第7章 必要のないもの
* * * * * * *
地域のクリスマス行事のボランティアを終えた帰路を、ゆきはしよりと歩いていた。
昨日は雪の舞い降りていた時間もあった。水滴が凍てるほどには冷えているのに、クリスマスソングが遊ぶ街は、不思議な温度を抱えている。ゆきがマフラーを外したのは昼間の舞台で身体を動かした所以として、まさか、見かける薄着の女子ら全員がどこかしらの催事に関わって、イエスだのマリアだのを題材とした出し物に携わってきたのではあるまい。
「疲れたねー。ゆき、このあと何かある?」
「何も」
「少し寄り道して帰らない?」
疲れたのに寄り道か。口許が温まっていればからかって笑いたいところなのに、化粧で保護したゆきの顔は、皮膚が悲鳴を上げていた。風が冷たい。首から下は着込んでいても、顔の表面は氷のようだ。
頷くのにとどめて、ゆきはしよりに目を細めた。
カフェに落ち着いてメニューを選ぶと、ゆきのかじかんでいた表情筋はほぐれていた。
店内は、二人連ればかりだ。一組だけ家族と見られる大人と子供が入っている。明らかにお茶やケーキより会話を楽しんでいる彼らを横目に、ゆきも浮き足立っていた。
しよりはどこにいても絵になる。くっきりした目鼻立ちに、血色が良く無駄な肉づきのない頬。ほんのり金色をまとった茶髪に、シンプルなカジュアルスタイルを小粋に見せる長身。いなせで優美な気性をそのまま体現した親友は、こぢんまりしたテーブルを一つ挟んで向かい側に眺めていると、不特定多数の女子達が腰を砕いてきたのにも納得がいく。否、親友というのは語弊がある。ゆきはしよりの告白を受けて、実際、今、ゆきは頰に上る熱を持て余している。胸が高鳴るのは今に始まったことではないにせよ、惹かれては負けだと自身を戒めていた時分さえ、ゆきがしよりを前にして、自身の内部にきたす現象をコントロール出来た試しはなかった。