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自由という欠落
第7章 必要のないもの
「私のこと好き?」
「急にどうしたの」
「ねぇ、好き?」
傷つかせないで。私を貴女の中心にいさせて。
親友と呼べる存在のいないゆきは、この恋をなくせば誰にも頼れなくなってしまう。
「愛してるよ」
「…………」
「疲れたなんて、冗談。ゆきとクリスマスしたかっただけなんだ」
昨年もしよりとイヴを過ごした。クリスマスも共にいた。
冬の間、演劇部は活動をしない。二月ようやっと新入生歓迎会の準備にとりかかるのだ。
それで暇を持て余すことになる年末、ゆきはしよりと例のボランティアに参加する。しよりは天使、ゆきは羊飼い。三年連続、変わらなかった。変わらなかったが、二人で毎年眺めているポインセチアも、クリスマスソングも、今年はひときわ輝いている。
「お待たせいたしました。アールグレイとカモミールロイヤルミルクティー。ストロベリーのモンブランと、抹茶と桜のムースをお持ちしました」
「有り難うございます」
「ご注文はお揃いでしょうか」
「はい、有り難うございます」
二人揃って手を合わせると、ゆきはティーコゼーを取り上げた。ポットの注ぎ口がカップに鼈甲色の水面を張って、小気味良い音を立て始める。
冬休みの計画を立てながらお茶とケーキを楽しんでいると、つと、しよりが口調を変えた。
「そう言えば、この近くって清水さんの家だよね」
「そうだったね」
「いるかな?」
「お誘いするの?」
「というか、家庭訪問?お礼もしていなかったし。入部の件も、曖昧でしょ」
そうした用件であれば、のはなも訪ねる必要がある。しかしながら、しよりはまひるを送って帰ったことはあっても、のはなに付き添ったことがない。大抵、のはなは帰りが遅くなると、親が抱えているという運転手が近くで待っていた。それで一人になったまひるを、しよりも自宅まで送り届けていたのだ。
「強引に舞台出てもらっちゃったしね。打ち上げ元気なかったのも気になる。菓子折りでも持って行こうか」
「そうしようよ。それは、会えたら、丹羽さんにも会いたいけど」
ゆきはケーキを平らげた。桜の風味が喉の奥に余韻を残している。アールグレイで薄めてしまうのが惜しい。