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自由という欠落
第7章 必要のないもの
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菓子折りは大袈裟だと思いとどまって、単に近くを通りかかった軽装備で、ゆきはしよりとまひるの住むマンションを目指した。
アポを省いた訪問は、困難だった。しよりは記憶を頼りに歩いた末、神妙に眉根を寄せた。まひるを送り届けた時は、深夜に近かった。夕まぐれの景色の中では、雰囲気も変わってくるせいか、目先に見えた目的地が本当にそこであるかが疑わしくなったという。
表札を確かめに行けば解決していた。確認を急げなかったのは、しよりが示した部屋の住人と見られる男を含めた数人が、今にも殴り合わんばかりの剣幕で対立していたからだ。
ゆきもしよりも、普段、物騒な案件とは無縁だ。万が一巻き込まれても自衛に万全を期せる見込みはなく、ぼうぞくな団体が退散するまで、息を潜めている他になかった。
もっとも、しよりの記憶が正確で、まひるが今日出かけず部屋の奥にいたとすれば、大事な下級生を案じて通報すべきだったかも知れない。本人に連絡を入れたものの、既読が付いたのは、それから二時間ほどあとだった。
ただし悶着を起こしていた団体は、業者と察せた。何かの金が未納で、住人の男が取り立てに逆上したようだった。しかも常習犯だという。
あの男達がどういった団体だったのか、ゆき達が夕餉のために二度目の道草を決めたところで分かった。
"お疲れ様です。留守にしていてごめんなさい。多分、父の利用している金融会社の人です。私は関係ないので、大丈夫ですよ!"
既読から十分と経たないうちに、まひるからそうした返信が届いたからだ。
ゆきは胸を撫で下ろして、カクテルグラスを傾けた。昼間と同様、煌びやかなぬくもりに浮かれたカップル達を背景にして、ゆきも最愛の人とグラスを鳴らした。