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自由という欠落
第7章 必要のないもの
* * * * * * *
年が明けた。
由緒あるはずの雅楽がいっそ安っぽく聴こえてしまいそうになるまでに、そこかしこで三味線の音色が耳に触れる新年早々、まひるは丹羽からの着信を受けた。
丹羽の営むアクセサリー専門店は、元旦から営業している。仕事納めの数時間後には仕事始めを余儀なくされた従業員らが業務を終えた閉店後、丹羽が彼女らを労って、夕餉を馳走するという内容だった。従業員の顔触れは、まひると入れ替わりに雇われてきた一人を除いて、八ヶ月前と変わっていないという。久し振りに彼女らと顔を合わせないか、そう丹羽が提案してきたのである。
昨年の今頃は日常的に通っていた路面店に、懐かしい商店街の眺め。ここ数ヶ月にも近くを通りかかったことはあっても、改めて店まで訪ねると、想像以上のもの懐かしさがまひるに迫った。
「それでは皆さん、お正月から頑張ってもらって有り難うございました。お疲れ様です。今年も宜しくお願いします」
定型的な新年の挨拶もひと段落したところで、丹羽がジョッキを持ち上げた。まひるを含む一同も、彼に続いてグラスを掲げる。
元日から、それも夜の九時を回っても営業している飲食店は、限られていた。この居酒屋も丹羽が予約をとっただけで、客の要望がなければシャッターを下ろしていたかも知れない。
まひる達五人の入った他にも個室はところ狭しとあったが、飲屋街の一角にしては、今夜は静かだ。
「清水さん久し振りですね、お元気でしたか?」
「お陰様で」
「社長のお嬢さんのお話相手でしたっけ。卒業されたら、戻ってくるんですか?」
「他にしたいこともないので……」