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自由という欠落
第7章 必要のないもの
まひるがかつての仲間二人の質問攻めに挟まれていると、丹羽が目尻を下げて口を開いた。
「良いんですよ、清水さん。ウチに残って下されば、もちろんとても助かりますが、わざわざ貴女のようにどこででも上手くやっていけるであろう人に、こんな小さな会社で頑張ってもらっては、もったいないです」
「またまた。私達は小さな会社だなんて思ってませんよ。社長はおじいちゃんみたいで優しいし、行動力もあって、尊敬しています」
芹川という従業員の一人が、力説の表情を見せた。
まひるより三つ年上の芹川は、彼女が十八歳だった時分から、丹羽に親しみと敬意を向けていた。明るい髪色に派手な化粧、姿かたちだけを見れば甚だ陽気な芹川は、中学校を卒業した直後のまひるにとっては別世界の人間だった。それでいていざシフトが被ってみると、素朴な気性の芹川は、気さくで話しやすかった。
芹川と、今年で三十五歳になる小舞。まひるが顔馴染みの彼女らに加えて、鈴丘と名乗るインディーズバンドのボーカルを掛け持っているという二十八歳の面長の女が、現在は丹羽の小売店を切り盛りしている。
「もう一年か、昨年は三日に新年をお祝いしたんですよね。まひるちゃんが店を辞めることは秋から聞かされていたのに、まだ実感が持てなくて」
「新年会に、送別会の雰囲気になっていましたね。皆さんから清水さんを引き離してしまって……無理を言って娘の世話を頼んでしまった、僕が悪者になった気分でしたよ」
丹羽の諧謔に、芹川達がどっと笑った。
店員が鍋の様子を見に訪った。透け感を帯びたキャベツやネギ、エリンギは出汁を吸って煮えていた。肉やつくねの赤みも消えて、マロニーも食べ頃だ。
小舞が野菜や肉を取り分けて、まひるは盛りつけられた小皿を配った。丹羽と芹川、鈴丘は、二杯目の酒を選んでいる。