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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
* * * * * * *
卒業後の進路について、積極的な希望はなかった。
私立の女子校に外部入学出来るだけの条件は揃わなかった上に、仮に公立に進めたところで、男子生徒の混在した空気をあのまま肺に取り込み続けていたら、身体までもたなくなっていた。かねてから就職と退職を繰り返していた父親の積み上げた負債額が、母親のパートだけでは始末が悪くなったのは、まひるにとってタイミングが良かったのかも知れない。
同級生らが進学先を決めていく中、まひるは中学三年生を終える春先、アルバイト先を決めていた。
輸入雑貨の直営店。代表取締役の丹羽(たんば)は娯楽に立ち上げた店舗の従業員らに優渥で、まひるに対しても父親以上に赤心を持って接していた。
生きているのか、生かされているのか。
掴みどころのない心地を持て余して、時折、両親の衝突に耳を塞いでは避難所を求めるようにして出会い系サイトをスクロールして、おりふし菓子をつまむほどの生気にしがみついていた。最小限の従業員数で回している店舗は過不及なく繁忙で、まひるがいた中等部でいつだったか問題になっていた自尽とやらを則っている暇も持てなかった。あっという間に二年と半年が過ぎた。
ある時、例にもれなく管轄下を巡回していた丹羽の顔に、切実な色が現れていた。
善良な風骨に人並みの俗欲に疲労したくすみがかかって、黒髪に白髪の混じった代表取締役は、定期的に従業員一人一人を相手にして、茶話という面談を始めたがる。
お茶を飲みに行きましょう。
その日もまひるは、父親のような、それでいて父親より地に足のついた男に従って、勤務店付近のカフェに入った。