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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥



「ボクの娘の、友人になってくれませんか」



 何かしらの話題を用意してきた風ではあった。それが業務を離れた丹羽個人の事柄だとは、想像だにしなかった。


 涼風がそよぐ季節の変わり目は、熱い紅茶が身にしみる。
 従業員らを案外律儀に見ている丹羽は、当初まひるがミルクを添えたアールグレイを続けて所望していたために、好物と判断したらしい。真夏でも、テーブルに着くや、店主に同じものを言いつける。


「私と同い年でしたっけ。それはどういう意味ですか」


 丹羽は、ホットコーヒーに砂糖を二本落としていた。
 彼も一年中、変わらない。店舗にいる従業員全員が彼の茶話に誘われることを考えると、この初老の男は少なくとも直営店を訪う日、日没までに六本の砂糖を胃に収めていることになる。


 丹羽の愛娘について、まひるも少しばかりの知識はあった。全国的に著名な歌劇団の舞台の観劇を趣味としており、彼女自身も声楽を嗜んだことがある。いつのことか、丹羽はそこそこ着道楽なまひるに言った。ボクの娘も、貴女のように可愛らしい格好が好きなんです。もっとも貴女のように色々着こなすことは出来ず、ひらひらしたものばかりですよ。

 彼が娯楽で運営している雑貨屋の従業員らの間では、有名だ。
 試験に名前さえ書けば入学が許可されるという中高一貫教育の女子校に通って、寮生活を送っている。愛娘の学力こそ丹羽は口先では揶揄しながらも、彼女を語る父親の声はいつでもあたたかい。
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