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自由という欠落
第7章 必要のないもの
正月に販売業務を離れて過ごしたのは、中学に通っていた以来だった。
年始の浮かれた空気を初めて経験して、自分で考えていた以上に人混みが不得手だったことも、日が暮れて過去になってしまえば、思い出だ。のはなと二人して人酔いしたのも。久し振りに出かけた心陽は、変わらず親しみやすかった。饒舌ではないまひるにとって、心陽のように積極的な友人は助かる。努めて話題を提供しなくても会話が続くからだ。
これが現実の全てであればと、望みそうになる。表面上の明るみだけが、まひるの現実の全てであれば。
まひるがのはなに邸宅まで付き添っていくと、二ヶ月振りに見る男の姿が門前にあった。
「こんばんは」
「久し振りですね、清水さん。お帰り、のはな」
「…………」
会釈したまひるの視界の端から、のはなの影が消えていた。振り向くと、今しがたまで肩を並べて歩いていたのはなが、まひるより二歩ほど遅れていた。
いつになく頰が青白い。のはなの顔色が芳しくないのは、月明かりが病的なせいか。
「ただいま、西原様。……まひる、知ってたの?」
「うん、学祭の時に会って。のはな、大丈夫?」
まひるがのはなの腕を引くと、びくん、華奢な弾力が波打った。指先が感知したのは拒絶だ。のはなの腕が震えている。足が小石にでも躓いた風に、不自然な方向へ崩れかけた。