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自由という欠落
第7章 必要のないもの


「のはな、気分、……」

「平気!」


 のはながまひるに腕を絡めた。コートの袖を通していても分かる。すごい汗だ。

 西原の不気味な微笑みが、深みを増した。


「疲れたのですか?可愛い人」

「…………。ごめんなさい、西原さん。色々連れ回しちゃって」

「いえいえ、お友達とのお付き合いは大切ですから。本当に、妬いてしまいそうになるほど仲の良いご様子で……」


 まひるはぞっとした。学祭の午後、講堂前の校庭で初めて顔を合わせた時の、あの時にも感じた悪寒がほとばしる。

 西原の舐め回すような目がのはなを慈しみ深く検分して、愛おしげに弧を描く口許が歪む。


「のはな、先に戻っていて下さい。俺も、貴女を送って頂いた清水さんにお礼を申し上げたら、中に戻ります」

「……だって。のはな、歩ける?」


 まひるはのはなの重みを増した腰を支える。か細い声が頷いて、耳をくすぐってきた。

 西原の様子を伺いに出たらしい坂木が見えた。まひるはのはなと別れを惜しみ合いながら、彼女を軒先で見知った家政婦に引き渡す。


 何を怯えているの。のはなは何を隠しているの。


 今確かめられないことを、次に会っても確かめられない。次では遅い。いやというほど、悔いを呪ってきたではないか。



 のはな、…………!


 声を上げかけたまひるの行く手を、西原が笑顔で立ちはだかった。







第7章 必要のないもの──完──
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