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自由という欠落
第8章 痛みと親愛
性に関心を持ち始めた年端の子供は、淫らな行為を経た先で得る感覚より、過程の作業に憧れるのではないか。
教育というブラインドを用いて大人達が遠ざける、特別じみた遊戯。制約の少ない彼らには当然に認められた、酒や煙草に並ぶ娯楽。
秘密にこもって貪る果実は、いつの時代もどこであっても、老若男女を痺れ上がらせるような蜜を孕む。
Nも大人の目を盗んで、果実を啜っていた。
善良で封建的な両親の下に成人したNは、義務教育期間中から、悪友達が不法に調達した雑誌やDVDの世話になって、保健体育の教師らがうやむやにしてきた性交渉の真理を求めた。
「大人の理屈は矛盾だらけだ。ポルノが俺ら子供にとって有害だって言うけどさ、理由は?」
「俺達が真似をしたくなったとする。トラブルや、特に相手に種を植えつけた場合、責任能力がないからだと言いたいんだろう。あいつらには責任能力があるらしい。だから俺達にとってセックスは有害で、あいつらには無害だ。実際、大人だって責任がとれるかは、個人差だがな」
「性交渉は、次の世代を産むプロセスです。……はんっ、保健の先生もよく言うよ。現実ヤリまくっているあいつらだって、誰もかもが、子作りなんか頭にもなくセックスしていることくらい知ってる。正味、男同士は?って話じゃん。どうせ大人も子供と同じ、受精させるつもりもないのに、エロいことして自分達だけ楽しんでいるんだ」
Nが父親の会社に勤めて三度目の春、在学時代に懇ろだった上級生の自宅にいた中学生らが、そうした議論を交わしていた。
世間が春休みの時期、Nの元上級生も、短い有給をとっていた。Nと同じテニスサークルに属していた彼は、久し振りに身体を動かさないかと、かつての後輩を誘ったのである。中学生のグループは、彼の甥と友人らだった。
通常、Nは子供の無駄話に耳を傾けるほど暇は持て余していない。この日はただ例外で、卒業しても変わらず先輩と呼ぶ男が酒を買いに出かけていた間、Nは自分をもてなす相手をなくしていた。そしてトイレから戻る途中、半開きになっていた襖の向こうの会話に、うっかり足を止めたのだ。