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自由という欠落
第8章 痛みと親愛


「どっかにヤらせてくれる女、いねぇかな。良いか、お前ら。結婚するまでセックスはタブーなんて、騙されるなよ。俺達は人間だ。赤ん坊精製機じゃない。セックスの目的が本当に子作りに限るなら、神様は快楽なんか与えなかった。俺らが夢精したりしない。合体の必要なんかないんだ、鳥や魚のように卵で良い」

「お前の口から神って単語が出るとはな。とは言え俺も同感だ。セックスを有害だの子作りの方法だの喚いているあいつらこそ、神様が人間に与えた娯楽、厚意も無視していることになる。実に反道徳的だ」


 中学生くらいと見られる男子らは、当時のNでさえ目を覆いたくなる類の雑誌を読み散らかしていた。

 目を覆いたくなるような、というのには語弊がある。
 Nは、自身のペニスが反応している事実に慄いたのだ。子供の無駄話の現場を覗いて脚と脚の間の肉棒が滾ったなどと、大人として由々しき羞恥だ。


 男子中学生らが共有していたポルノ雑誌は、加虐嗜好な、いっそ攻撃的なまでに、女という生き物を虐げる遊戯を扱っていた。



「君達」

「ひっ」


 襖を開けたNの姿を認めるや、思春期の少年達の蒼白な顔が引き攣った。彼らにとって、Nは敵だ。大人だからだ。


 Nはひときわ目許を細めて、武器の無所持を証明する隠者を気取って両腕を上げた。


「驚かせてごめん。君達の見ているものが、あまりに素敵だったから……」

「は?おじさん、こんなエロいの好きなの?」

「おじさんはこういうこと、やるの?女の人に」

「ううん、俺は残念ながら……」



 中学生らは、途端にNを軽んじた。大人にもなって禁断の遊びを体験していないという認識が、彼らに近親感も与えた。


「だからね、君達も、俺みたいになってはいけないよ。学生時代はあっという間だ」

「でも、俺、モテないし」

「オレも……」



 何故、あんな提案をしたのか。名前も知らない、赤の他人である子供らに。

 少年達が所持していた雑誌が、ある衝動をNにもたらしたのは確かだ。


 緊縛を甘んじて受ける四肢、蠟燭か血か、精液か、あらゆるものに汚れる女体。猿轡に歪む顔。ピアスや刺青が隷従を強いた白い肉体。…………


 Nは翌々年、見合いを控えていた。相手はやんごとなき女のはずだ、対等な肉体関係であれば、将来いくらでも楽しめる。
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