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自由という欠落
第8章 痛みと親愛



 結局のところは世間知らずなのかも知れない。
 のはなの件で少しは臆病な大人になれたつもりでいた心陽は、あくまで世間が末っ子に備わりがちだと考えているらしい性質を、未だ根底に持っている。

 思い通りに事が運ばないのであれば、どう動けば最善かを思考する。物怖じしない、遠慮や恐れは行動の妨げになるだけだ。


 心陽は佳乃から強引に引きずり出した僅かな情報を鍵にして、事件に関する更なる話を求めた。
 世間は案外狭いもので、誘い合わせて初詣に出かけた香菜を含む顔触れの中に、件の中学校の卒業生だという上級生がいた。学祭で世話になった声楽部員の一人である。紬とクラスメイトだったらしい。

 
「生きてたんだね、暮橋さん」

「未遂だったからね。……まひるちゃんには話さないで」

「やっぱり関係あったんだ」

「…………」

「お姉ちゃんの妹の情報網を、甘く見ないでもらいたいな」



 問題は、まひるにどう話しかけるかだ。

 紬の名前を出した時、まひるの顔色が変わった。陽子と同じ、否、陽子以上に、生傷に塩でも塗って抉られた顔を見せた。心陽とて友人を追いつめたくない。だが、場合によってはまひるの協力が必要だ。


「私は倉橋さんを犯した犯人を警察に突き出す」

「何年前の事件よ。証拠もないのに」

「私が証拠」

「心陽ちゃん」

「絶対な証拠を固めるために、私は暮橋さんに会う」
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