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自由という欠落
第8章 痛みと親愛
* * * * * * *
高層階の一室にいたのは、丹羽くらいと見られる年端の男だった。
黒と白の混じった癖毛に、窪んだ目元、健康的に脂の溜まった頰に散らばる茶色いシミ。とりわけ男を嫌悪しているまひるの僻見もあってか、小綺麗なシャツが、気味悪い匂いと筋肉をくるみ隠しているように見える。
野田はまひるを部屋に迎え入れるなり、自身の虚偽を確言した。
確かに野田は西原に、それ相応の女を提供すれば、契約を検討しても構わないと言った。ただし約束はしていない、もとより西原には利益でも、野田には損も得もない商談だ。一夜の快楽だけで決断する経営者など、正気の沙汰ではあるまい。
「分かりました。彼も納得すると思います。こちらから伝えておきますので、……」
では、と、まひるはノブに手をかけた。そこを野田が呼びとめる。
「何でしょうか」
「お父上に借金があるんだと聞いているよ。清水さんといったかね?君次第では、その金、わしが用意しても構わん」
「…………」
「不幸な娘を好きにするのは、実にドラマティックだ。わしのような地位でもなければ、札束で女を買う経験などそう出来まい。……庶民の生活の実情など、永遠に知ることもないだろうがね」
野田は世間が眉を顰めるような行為ほど、法悦する。今でこそ昔ほど精力はないにせよ、在りし日のこの男は、令閨より直属の社員を相手にしている方が熱い夜になったという。秘書や新入社員、直営店のアルバイト店員──…中には困窮した家庭の生まれの女もいて、野田の好みに該当すれば、個人的に呼び出していたらしい。啜り泣く女の頰や尻を札束で打って、股を開かせていた。
「実はわしもこの歳じゃろう。もう最後に勃ったのは、いつのことやら。わしを元気にすることが出来れば、債務を全額引き受けてやって良いかのう」
「……っ」
痩せ細り皺の入った野田の手は、いざまひるに触れるとごつごつしていた。まひるは野田に腕を引かれて寝台へ進む。
野田がズボンを脱いで腰を下ろした。股を開いた中心が異常に膨らんで、パンツの布を押し上げている。カーテンの隙間に差すネオンの光と、蛍火のごとく天井に散らばる蜂蜜色の蛍光灯が、シミを照らし出していた。
まひるが目を背けると、 視界の端で、野田が更に動作した。