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自由という欠落
第8章 痛みと親愛
のはなの手つき、口振りは、やはり作業でもしている塩梅だ。それでいて野田にささめく口説き文句は、思わず本心ではないかと錯覚するまでに甘く、艶かしい。まひるははだけたブラウスの身頃を握って、のはなを制しにかかった。にも関わらず、のはなはまひるを払いのけて、野田に口づけをして舌を絡める。彼女自ら彼の手を掴んで乳房に導き寄せて、謙遜を交えながら自身の肉体をアピールする。滾った彼のペニスを褒めて、焦らして、しごいて、しごいては焦らす。
「はぁっ……おぉぉ……ハァッ、ハァッ、お前があの西原の女だと…………愉快だ……西原の女を抱けるというだけで、わしの逸物がもう限界じゃ……」
「まだです、野田さん。いくら貴方が立派だからと、こんなに早く受け入れたら……私、せっかく来たのに楽しみが……」
「おお、そうか、そうか。ではゆっくりほぐそうな……。どれ、お前も見せてみろ」
野田に肩を抱かれたのはなが、鼻を啜るような息をこぼした。頰が上気して見えるのは、迷い込んでくるネオンのせいか。潤んだ黒目が薄い涙を生んでいた。
のはながスカートを捲り上げて、ストッキングに指をかける。気を良くした野田は、恋人を見つめてでもいる目で、そんなのはなを見守っている。
まひるを窘めるためだけに、ここまでの虚勢を張れるのか。
考えている場合ではない。のはながこんな場所にいること自体、おかしい。…………
「野田さん。失礼します」
「あっ」
まひるはコートを身につけて、のはなのコートも抱き上げた。のはな本人の腕を引いて、扉へ向かう。
華奢な身体が、刹那、石のように固くなって、野田の側に重心を低めた。のはなから感じた拒絶の真意を確かめるのは、あとで良い。まひるは彼女を強引に連れて廊下へ急ぐ。
「待ってまひる……っ」
「のはな、……ごめん」
言葉はとめどなく込み上げるのに、それしか声にならなかった。
いつものはなの味方でいる。困った時、苦しい時は、いつだって駆けつける。
決めたはずだったのに。
ホテルを出ると、一月の寒気が肌を射抜いた。
まひるはのはなにコートを着せて、通りかかったタクシーに手を挙げた。