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自由という欠落
第8章 痛みと親愛

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 明滅するステンドグラスのような車窓の光に当たりながら、まひるはのはなにどこへ行こうか問うた。
 目的地のなかった乗客に、運転手はどういった心象をいだいたことか。ややあって、のはなが「ホテル」と返事を寄越した。


 世間が連休に浮かれている深夜のビジネスホテルは、すぐに空室にありつけた。
 過保護な丹羽は帰宅しない一人娘に気づいて、思い乱れている頃か。或いは未来の婿と杯を交わして、既にのはなにまで気が回らなくなったあとか。少なくとものはなは、友人と気軽に朝帰りする種類の少女ではなかった。今夜に限って私宅を避けた。まひるが何かを予感するには十分だ。




「何で私まで連れて出てきたの」


 個室に入ると、それまで沈黙していたのはなが口を開いた。

 しんとした無音に響いた声、のはなの潤沢の双眸は、心なしかまひるに敵意を向けていた。


「私はまひるを庇いに行ったんじゃない。個人的な感情で、あの人に会いに行ったの」


 まひるは言葉を失った。喉の神経が正常な機能をなくしでもしたように、のはなに対する言葉が出ない。

 伝えたいこと、知りたいことが、まひるの内側を混濁と渦巻いていた。ともすれば夜が明けるまで、のはなと話すべきことがあったはずだ。だのに先刻の疑問にさえ答えられないでいる。


 まひるが黙り込んでいると、辛辣な気色を放つ姫君の方が、話を続けた。


 のはなは、野田に期待していたらしい。野田ほど優しいキスを与えて、野田ほど温かくのはなを迎えた情欲は、未だかつてなかったという。
 性器を握っただけで機嫌を良くした野田の笑顔に、安堵した。奴隷と変わらない風に傅いて、家畜のごとく跪いて脱衣しなくても、野田はのはなの一挙一動に目を細めて、終始、対等な人間として接した。言葉を交わした時、涙が溢れそうになったという。
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