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自由という欠落
第8章 痛みと親愛
「まひるはきっと女性の方を愛する人だし、お互い同じ性別なら、きっと異性間より気を遣い合える」
「個人差はあるけど……。まぁ、上下関係は出来にくい、かな」
「それだけで十分だわ。…………野田さんに抱かれてみたかった。女として優しくしてもらえると、あんな気持ちになるのね。まひるには分からないと思う」
「のはな、さっきから何言って──…」
まひるはのはなに手を伸ばした。
今度こそのはなが離れていく気がした。どこを見つめているのか分からない、どこにいるのか分からない、のはなという不安定な存在は、今でさえ同じ空気の中にいながら、まるで別の場所にいる。
違う。
そうした気がしているだけだ。のはなを理解したくないだけだ。理解してしまったが最後、まひるはまた慚愧する。のはなを知悉することを恐れている。
愛だの幸福だのの概念から目を背けてきたまひるにも、のはなの意思が常軌を逸しているのは分かる。のはなが必要としていたのは優しさではない、安らぎでもない。肉体関係を結ぶ以上、あって当たり前の信頼関係、尊重だ。そんなものも備えず、今日までに誰かに、その柔らかな肉体を開いたというのか?
「…………」
指先に触れた肩は、戦慄いていた。愛に溢れていたようで、あかぎれになってひび割れるまでに枯渇した安らぎにしがみつこうとするばかりに、もがけばもがくほど傷を増やす。
「おかしいよ、それじゃ、まるでのはなが誰かに大事にされてこなかったみたい……「震えが止まらなかったのに!」
悲痛な叫びが、まひるの動作を制止した。のはなは声を荒げるや、それまで彼女を支えていた糸が外れた具合に、身体をぶるぶる震わせた。肩の慄きは、真新しい傷に苦艱している小鳥の羽根を彷彿とした。
「のはな」
「っ…………」
まひるはのはなを引き寄せる。引き寄せて、抱擁した。少女が親友を慰撫する抱擁。
強張っていた小さな肢体は、やがてまひるに寄りかかるようにしてうなだれた。のはなの指が、袖を通して爪が肉叢に食い込むほど強く、まひるの腕を掴んでいた。