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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
「清水さん!お待ちしておりました。あらまぁ、相変わらずべっぴんさんだこと……そちらの方は?」
「初めまして。山本心陽です。のはなさんとは、学校で仲良くさせてもらっています」
「そうですか、失礼いたしました。わたくしは家政婦の坂木と申します。お部屋に案内します、靴箱はそちらをお使い下さい」
坂木は彼女の世話する令嬢の部屋へ向かう途中、年頃の娘を持つ母親らしい素顔を見せて多弁になった。
彼女が特に興味を示したのは、心陽の洋服だ。
のはなと同じブランドの店に通う心陽は、今日も下校中、さんざっぱら人目を引いていた。ピンク色のケミカルレースがふんだんにあしらってある白いシャボ付きブラウスに、天使の羽根の形をした襟で飾ってあるくすんだピンクのジャケット、そして裾がスカラップになったサックスのミニスカートからは、ピンク色の大きなリボンの付いたドロワーズがわざと覗いている。髪にはみずみずしい艶にくるまれた桜のバレッタ。凛とした目鼻立ちと腰まである長い茶髪は、姫系のトータルコーディネートをいっそう引き立てている。
「まひるも派手じゃん。髪の色、本当よく保てるね。ピンクって落ちるの早くない?」
「トリートメントついでに自分でやってる」
「まめー」
「二年くらい前からしてるし、慣れたよ」
「受験大丈夫だったの?」
「何とか……AOだったし」
「余計やばいところなのに。頭良かったんだ、羨ましい」
本当のところ、まひるの受けた入学考査は、形ばかりのものだった。面接も、小論文も。
笑ってやり過ごしていると、坂木を先頭にした三人は、いつまでも続いていくようだった階段、長い廊下を渡りきった部屋の前にいた。