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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
血の気の引く夢には妙味がある。そう誰かが言っていた。覚醒したあと、ホラー映画を見てきた気分を味わえるらしい。
のはなもそれだけの鉄火肌を持ち合わせていたとすれば、日常を愉快で語り尽くせていたかも知れない。面白可笑しいほど悲惨で、美的なほど極悪な後味をノートにでも書き留めていけば、いつか、昔読んだ悪意に満ちた喜劇に匹儔する傑作が仕上がっていたろうか。
眼が覚めると、のはなはふかふかに空気の入った羽布団に包まれていた。
小学校を卒業した祝いにと、のはなが丹羽にねだった天蓋ベッドは、七年前と同じでまるで真っ新だ。婉曲を描くつややかな象牙色の骨組みは至るところに金で装飾してあって、あるじの夢見を包み込むドットチュールのカーテン、庭に咲き乱れる春の花と同色の寝具はたっぷりとフリルやリボンがあしらってあり、ふんだんにギャザーの寄ったベッドスカートが毛長の絨毯を撫でている。
見回す部屋は、どこも白とピンク色。
のはなの嗜好がこれでもかと言わんばかりに投影された私室だが、のはながこの部屋に起臥するようになったのは、わずか一ヶ月ほど前だ。
「のはなさん」
無音の時間は、突然、途絶えた。
形式的なノックの音に被さったのは、のはなが物心ついた時分から家族同様に世話を焼かれてきた家政婦だ。
「おやすみのところ、申し訳ありません。昼にご連絡をいただいておりました、清水さんと山本さんがお見えになりました」
「有り難うございます、入ってもらって」
馬鹿になりかねないほど穏やかな時間は、のらくらと流れていっても実感がない。おまけに現実への帰還も拒んでいた内に、半日も経っていたのか。