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自由という欠落
第8章 痛みと親愛
ちゅ。くちゅ……ちゅる、ちゅ…………
まひるとのはなのキスの間を水音が交う。舌を絡めて、唇を重ねて、また舌を絡める。口許が筋肉痛を起こしてしまうのではないかと危ぶむ。いつ螺子が外れるか分からない、既にどこかの部品をなくしたあとかも知れないのはなに、ガラス細工を愛でるように触れたい反面、貪り尽くしてしまいたいとも願う。
「あぁ……まひる……」
「やば、やめ時……分からなく……」
「やめなくて、良い……んぅ……このまま……」
のはなの舌が、まひるの唇を味わう。のはなは釁隙が生じる度に切なげな吐息をこぼして、うっとりと、驚くほどの回数、まひるの名前をささめいた。さっきまひるがしたように、のはなの舌が、唇を割って入ってきた。
絡めた指が、みだりがましい顫えに疼く。舌を絡めているからではない、のはなの指のなめらかさが、まひるは改めて身に染みた。
のはなの口許を伝った唾液を啄ばんだ。ずるい、と、のはなが笑う。まひるのも飲ませて、と甘やかにささめいて、のはなはしどけなく舌を差し出す。まひるは二つの味が混じった唾液を、その舌に落とす。
名づけ難い執着を引きずりながら、まひるはのはなと浴室に移った。
シャワーを浴びたい、と、どちらからともなく言い出したからだ。親友と身体を重ねるのに、赤の他人である男の残滓は不要だ。
野田の匂い落ちた、と、シャワーを握ったのはながまひるに首筋を近づけた。まひるは白い輪郭の影をくすぐって、耳の上の位置まで上げた黒髪の根元を撫でる。そして、そんなの初めからついてなかったよと笑う。
「キスだけで匂いが移るなんて信じるの、のはなは手を繋いで妊娠するって思っていたタイプでしょ」
「じゃあ、まひるは何でシャワー浴びたいって言ったの」
「のはなの裸……見たかったから?」
「あっ、ダメ……」
まひるの指が至りかけたところで、のはなはバスタオルを握った。どうせあとから見るのに。まひるが何度そう言っても、浴室が明るすぎることを理由にして、のはなは身体に巻いたものを外さない。
のはなが野田とキスしていた間に、まひるはシーツで精液を拭った。行為の痕は消したつもりでも、多量に嚥下した体液は、未だ不快な泥になって、腹の底を蠢いている。こんな身体でのはなに触れられない。流したいものがあったのは事実だ。