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自由という欠落
第8章 痛みと親愛

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 仮眠から覚めると、のはなはまひると代わる代わるシャワーを浴びて、髪を洗った。下着は人気(ひとけ)のまばらなコンビニエンスストアへ買いに行って、パンティは新しいものが履けた。

 互いに家庭が厄介な所以、朝陽が昇るまでに帰宅しなければならなかった。まひると二人、永遠に閉じこもっていたい思いに叱咤して、のはなは下着のついでにカゴに放り込んだスイーツを、彼女と一緒に朝食代わりにした。正月らしい、抹茶のパフェと桜餡のカップケーキだ。

 愛らしいケーキと同じ色の髪をした友人は、ともすればこれからのはなを寝かしつけでもするつもりかといった口調で、彼女自身の昔話を披露した。断片的な、ところどころぼやけた輪郭のまひるの話は、それだけ他人に打ち明け慣れない昔話だったろうことを暗に示していた。


 付き合っていた人がいたの。学校の先輩。

 あんなに大事にしてもらっていたのに、私は彼女の何も知らないで、ぬくぬくと幸せだなんて思い込んでいたの。

 だから誰も愛さない。ごめんね、のはな。誰か殺してくれないかなって、今はそればかり願ってる。



 のはなは別段、驚かなかった。ショックも受けなかった。まひるの話は、のはなの胸にしっくり落ちて、紅茶にフォームを注いだように腑に落ちた。

 華やかで優しく明るいまひる。

 のはなが彼女と断定してきた彼女も嘘偽りはなかろうが、どことなく合わなかった辻褄が、むしろようやっと合った気がした。

 ただ、おそらくまひるが意図的に名前を出さなかったかつての彼女の恋人に、のはなは無性に悋気した。何故、自分がその人ではなかったの。我ながらこの感情は存外だった。のはなには、自分のセクシャルが異性を対象としている自覚があった。自分が男であれば、女として魅力的なまひるに惹かれていただろうと想像したことこそあった。だのに数時間前、まひるに女として愛された途端、理屈や固定概念など霧散した。
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