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自由という欠落
第8章 痛みと親愛



「途中からのはなに気を遣えなくて……、痛いことしてたら、ごめん」

「何で?気持ち良かったわ。私こそはしたなくて」

「だってのはな、泣かなかったし……」


 野田の対応に、のはなは目尻を熱くした。それがまひると身体を重ねた時は、鼻を啜りもしなかったのが、彼女は気がかりだったらしい。

 カップケーキがまもなく、なくなる。帰路に着かねばならない時間が迫っていた。


 想像ついていた所以だ。まひるがのはなをぞんざいに扱わないのは、分かりきっていたことだった。
 春から秋にかけて一つの芝居で相手役を務めた日々、あの時分に、のはなはまひるの温もりに泣いた。演技だとわきまえていながら、まひるの演じた男のような人物と引き合わせられたかったと夢を見た。本当はまひる自身を見澄ましていた。求めていた。

 存外な優しさを得て涙を流すことはあっても、確信がただ現実になるのでは、満たされこそすれ、のはなは泣けない。


 のはなはまひると駅までの距離を共にした。邸宅にまで付き添われたなら、またすぐ顔を合わせられるのに、少しの間が辛くなる。

 黒に近い群青の空の下でキスを交わした。互いに背を向けるまで、指先同士で別れを惜しんだ。
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