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自由という欠落
第9章 仕掛けのない平凡

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 冬季休暇が終わった。


 一年で最もイベントの続く年末年始を交際相手と過ごした友人達の報告を受けながら、いっそのこと移動時間などなくなってしまえと心の中で毒づいて、心陽は午前中の講義をやり過ごした。

 生来、心陽は脳天気な性分だ。通常であれば運気の分け前を目当てに、進んで浮ついた話を所望していた。福は福を招く。
 ただし今年の頭ばかりは、少女達が宝石のような笑顔で振り返るきららかな話を静聴したところで、心陽が何かしらの強運を享受出来る見込みはない。運をつけて、それからどうしろと言うのだ。密かに想いを寄せていた相手に婚約者がいた、といったくらいの不運に見舞われた同級生と、いっそのこと涙を共有したかった。


 暗鬱としていた心陽も、昼餉時になってのはなの顔を見た途端、幾らか気分は回復した。


 のはなの将来がまばゆければ、心陽が身を引く意義はある。…………


 人間、美しい花を観賞して、心がやわらがないケースは稀だ。よほどの例を除いては。心陽にも、そうした作用は働くらしい。


 アルバイトをしていない大学生の財布事情は、中高生より厳しいのではないか。三人とも、昼は購買か近くのコンビニエンスストアが定番だ。
 洒落たランチへ出かけていった学生達よりうんと贅沢な空間を確保して(何せ賑やかなカフェと違って、空き教室は他に誰もいない)、あっという間に小一時間が過ぎた。心陽は四限目の講義まで時間を潰すという二人を残して、帰路についた。


 しばらく余韻に浸っていた。のはなを諦めるつもりでいるのに、ふとした時、探っていた。のはなが垣間見せる隙に、心陽は淡い期待をいだいた。


 西原篤は、ともすればのはなの心を、さして占めてもいないのではないか。…………



「…………」


 やめよう、と、溜め息をつく。他人の相手を奪っても、ろくなことはない。年末、陽子のあんな屁理屈を耳に注いでしまったせいだ。



 学校を出て、なんとなしにバッグを開けて、気がついた。財布が一つ余分に入っていた。

 淡いピンク色の合皮に絞った生クリームとスライス苺がプリントしてあるケーキのデザインの財布は、さっきのはながコンビニエンスストアのロイヤルミルクティを買った時、持ちにくそうだったのを見かねて、心陽が預かってやったものだ。
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