この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
自由という欠落
第9章 仕掛けのない平凡
のはなが西原の会社の本社へ行くと、社員達は社長令息の婚約者に愛想良く挨拶をした。
ビルのフロア二つ分の本社は、大通りに面しているのもあって、日没後も明るい。西原がのはなを呼びつけた真意を測りかねながら、彼の部署にもまだ残業している社員達が残っていたのを確認すると、緊張していた糸がたゆんだ。
もっとも人目につく場所であれ、のはなの最初の胸騒ぎは的中した。
この部屋でデスクワークをしていた部下達は、七人。西原は彼らに手を止めるよう命じると、のはなに脱衣を要求した。
「……承知致しました。人払いを、お願いします」
「誰のために、この方々に残業してもらっていたと思っているんだ。お前を待つためだろう」
「え……?」
「脱げ!!でなければこの間のようなことは、お前が死ぬまで許さない!!」
西原の恫喝が、のはなの神経を凍りつかせる。ひとりでに動き出す指が、衣服から衣服の役目を奪う。
年始のあの夜の翌朝、西原はのはなを蹂躙すると、野田かまひる、どちらかと関係を持ったのだろうと判断した。
のはなが西原の社員達を探って、野田の居場所を突き止めたところまでは知れていた。例の社員には秘密厳守を破ったとして、のちに県外への辞令が出た。
不義が道徳に反するのは、のはなにでも分かる。
この件を持ち出された場合に限って、のはなは被害者の顔も見せられなかった。
四つん這いになれ、そう西原はのはなに続けた。社員達が半円に並ぶ中心で、のはなは彼らに臀部を向けて、手と膝をつく。尻をもっと突き出せ、と、がなり立てる声が耳を打つ。
「実はな、夫婦揃って同じ趣味だったんだ。清純に見えて、あばずれだ。この雌豚は、この間もよその人間に股を開いてきた……今から結婚が楽しみだよ」
「それで西原さんは、どこの風俗の誘いにも断っていらっしゃったんですね!良いなぁ、ウチの嫁なんか、ソフトもさせてくれません」
「可哀想に……。俺の物を貸してやるから、お前も我慢している分、今夜は存分に楽しむと良い」
どこかで濡れた呻吟が立った。ベルトを外すような金属の音に耐えかねて、のはなはか細く抗議する。
「誰が尻を下ろして良いと言った!!」
ビュンッ…………
「あ"ぁあっ!!」
臀部に鋭い熱が走った。