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自由という欠落
第9章 仕掛けのない平凡
空き教室に戻るや、心陽の扉にかけた手が止まった。
数秒間、頭の中が真っ白になったあと、音を立てずに隙間を作った。
「酷い傷……、怪我?……じゃ、ないよね」
均等に並んだ長椅子の一つに、のはなが猫の体勢で伸びをしていた。そこまでならば、睡魔でも襲ってきたのかと納得のいく光景だった。
しかしのはなは、花のモチーフが散りばめてあるチュールレースを腰まで捲り上げて、パンティをどこかへ脱ぎ捨てていた。まひるが遠慮がちに撫でている。
「やっぱり、バレたわね」
「病院行った?」
「こんなの診せられない。ベルトでお尻を叩かれたなんて……」
手のひらに包み込めるほどの桃は、事実、果実ほどの血色があった。或いは果実より赤い。ところどころ青みがかって、赤い亀裂が入っている。
次の講義まで、あと一時間少しだ。いっそ次の教室で待ち伏せて財布を返せば良いのに、心陽は理性が咎めてくる声を聞き流して、隙間の先を凝視していた。
「こういうことしても、前より酷くなってるだけじゃん。のはなは嘘がつけないんだよ、だからやめよ──…「いやっ!!」
のはなの声は、今にも泣き出しそうだった。
天衣無縫の代名詞である友人が、下半身に何もつけないで親友の愛撫に尻を委ねている状況にも付いていけないが、かくも痛切なのはなの悲鳴を、未だかつて聞いたことがあっただろうか。
可哀想、と、まひるの唇がのはなの割れ目に近づく。まるで磁石と磁石が惹かれ合うほど至極自然に、甘ったるいキスが亀裂に触れた。
「あっ」
「こんな綺麗な場所にこんな傷つけるなんて……私なら絶対出来ない……」
「んんっ」
まひるの啄ばみがのはなの臀部を遊ぶ。青痣の浮かんだ脚の付け根、血の固まった部分には、わざわざ瘡蓋を剥がして吸い上げてしまう気かと思うまでに執拗なキスが落ちて、のはなから別種類の悲鳴を引き出す。皺だらけの穴、その真下のきわどい粘膜にまで、まひるは口づけていく。
「あぁぁ……まひるぅ……」
「のはな……」
「側にいて。あっ、はぁん……あぁっ……」
上体を起こしたのはなは、まひるの首に腕を回した。何か発しかけた唇にキスを押しつけて、のはなは彼女の言葉を封じた。
二人にとって躊躇い合う行為ではないのだと、僅か数分間が物語っていた。