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自由という欠落
第9章 仕掛けのない平凡
互いの空疎を埋め合わせていくように、触れられるものを確かめて、味わっていた。
人と人とは一つになれない。同じ時間を共有して言葉を交わせば理解(わか)り合えると、自然の摂理が保証していたとすれば、人間はとうに個体ではなくなっていたはずだ。
それでも支柱に縋りたがる。補いたがる。
まひるが現世にとどまれるのは、のはなという気がかりが残っているからだ。
そう、気がかりだ。二人を紐づける感情に、愛情だの執着だのという積極的な類はない。
「あっあっ……はぁっ、ど……うしよう、もし誰かが通りかかったら……はぁっ……ああ!」
「火曜は大丈夫でしょ。次まで誰も来たことないし」
「んっ、……はぁ。そうね。……んっ、あぁぁ……っっ」
ただし、万が一の懸念はある。
まひるはのはなのブラウスの裾から片手を入れて、ブラジャーのホックだけ外していた。たわわに溢れ出たものが、手のひらの中で熱を上げて、先端を尖らせている。時折みぞおちまで呼び水を下げて、やおら円を描くと、のはなはびくんと仰け反った。ストッキングは脱がせていたが、切なげに水音を立てる肉薔薇は、スカートを被せれば誤魔化せるはずだ。
「でも、のはなの中さぁ」
「っっ……」
「ほら、じゅくじゅく。本当に人が来たら、どう誤魔化すかだよね」
のはなは自分が正気を保っていられるのは、まひるの優しさに触れられたから、と言う。特に恍惚にさらわれていった時、ともすればここが学内であることを失念しているのではないかというほど高らかな声を抑えかねている時は、彼女自身の意識とはよそに、うわ言が一人歩きを始めているようなことがある。
…──まひるがいなくなったら、私は我慢の限界が来る。だからこっそり後を追っても、気づかない振りをしていてね。
いつかの言葉。
牽制とも聞こえたのはなのうわ言に、まひるは何も返せなかった。
まひるとてのはなが死にたくなったら、彼女を止めない。それが冷酷な選択でも、強制的な延命ほど、利己的で残忍な愛もないのではないか。さすれば泣くことしか出来ないし、のはなを尊重することしか出来ない。それらの行動をし尽くせば、あとは追うしか思いつかない。のはなが気づくことのないように。