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自由という欠落
第9章 仕掛けのない平凡

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 幻が銀色の炫耀を刷いたマチエールに、幻から生まれた色が乗っていく。キャンバスは通常、白や生成と見られがちだが、ひとたび手を加えた絵肌は、その段階である種の作品と呼べるのではないか。

 佳乃が絵肌に水を使わないというのは、おそらく口から出まかせだ。姉の一部が混じっているか、目で見て甄別出来るというのも癪だが、かなしいかな心陽には判る。佳乃が今、色をしたためている静物画からは、心陽の最も身近な人間の匂いがしないし、下地は触れると崩れそうなまでにさらりとしている。


「いやらしい絵じゃないんだ」

「うん」

「花瓶の絵なんて、珍しいね。すずらん?」

「そう。プレゼントにって、依頼して下さった絵なんだ。幸せの再来、純粋、謙遜。有名な花言葉はそんなところで、他には希望っていう意味もあるみたい」



 心陽が花を特定したのは、傍目からすれば奇跡だ。

 佳乃の表現は抽象的だ。まさに幻の具現化、彼女の目が描き出すものは、対象物とは異なる姿で、キャンバスの中に現れる。
 心陽の見ているすずらんも、白く可憐な花ではない。淡い極彩色の、オーロラがかった姿をしていた。ざらつきの強い凹凸から、所どころ星の形が覗いているのは、彼女の配合したジェッソに星の砂が含まれているからだ。星の砂はロマンチックだが、実のところは有機質だと聞かされた時は、背筋がぞっとしたのを覚えている。


 佳乃は、個人的な依頼を受ける画家ではなかった。入賞すればその傑作に破格の値段がつくコンテストの常連である彼女は、国内外で誘いを受けたり応募したりしては、いずれかの賞をとっている。ファンとの距離をとっているのではなく、単純に描く時間が足りなかったのだ。しかも女の愛液が混じっていない絵など、初めてではないか。
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