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自由という欠落
第9章 仕掛けのない平凡


「今になって、どうして貴女のようなお友達が訪ねて来て下さったのか、分からないわ。あの子を大切に想って下さっている方がいて、嬉しいのは本当よ」


 心陽は祖母の下がった眉を、口許を、観察していた。彼女の顔色は疑念を示唆しているか、それとも本心も言葉の通りか。


 怪しい自覚はある。ともすれば当時は本当に、それこそ彼女の本当の友人達が訪うこともよくあって、彼女らの情報の中に心陽のような関係者はいなかったかも知れない。大切な、特に一度事件に巻き込まれた孫娘の居場所など、たとえ歳の近い女にであれ、簡単には教えられまい。


「……有り難うございます」


 ただ、心陽の行動は陽子のためだ。陽子のために動いているのに、何故こんなことを口走ったのか、自分で自分が分からない。


「確かに怪しいですよね。今まで音沙汰もなかった私が、急に紬さんに会いたいなんて」


 でも、と、のはるは片足を踏み出す。祖母との間の距離を詰めた。


「友達に紬さんを好きだった子がいるんです。ほぼ毎日、昼休みとか一緒に過ごしていたみたいで……」

「え」

「かなり慕っていたみたいで、ずっと立ち直れなくて。嫉妬するほど綺麗な子なのに、未だに好きな人も出来ないで、紬さん紬さんって言ってて、退学前はゴールデンウィーク手前まで会ってたみたいだけど、紬さん以外の人のこと、きっと今でもずっと信じられないでいる……」


 さっきまでとは異なる後ろ暗さが、心陽を諌める。

 佳乃の話を概括すれば、ざっとまひるの現状は、こうしたところか。


 祖母の顔色が変わった。

 中学生の少女がどこまで身内に自身の話を聞かせているかは危うかったが、紬は根本から優等生だったらしい。


「入って。立ち話もあれだから、お茶でもしましょう」


 門先より奥へ進むと、知らない家庭の匂いが深まった。よく磨かれた框に屈んで、心陽はブーツのファスナーを外す。
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