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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「のはなは可愛らしいものが好きだからねぇ、昔から。お父さんの会社も、昔ほど良くはなくても、今も社員を増やせるほどの売り上げはある。新しい店舗は、のはなが卒業したら、ちょうど社会経験にもなるだろう、任せてみても面白いかも知れないねぇ」
「何言ってるの、西原さんの気を損ねる。きっと家のことで手一杯になるわ」
「そのことだがね、のはな。のはなが本当に彼を気に入っているなら、お父さん達は祝福する。けれど最近の若い人は、結婚だけが楽しみじゃないそうじゃないか」
「…………」
「のはなは好きなこともいっぱいあるし、お父さんの勘違いなら悪いが、清水さん達との話をしている時の方が活き活きしている。しっかりもしてきたね、何も出来ないはずの子供だったのに」
善良で、人の悪意に疎くても、丹羽はのはなの父親だ。娘の心情、顔色、声音には、案外敏感だったのか。
ダマスクローズの紅茶が甘い。芳しい匂いが父娘のあちらこちらに染みつく頃、丹羽は、のはなが仮に別の人間に魅力を感じるのであれば、西原にはすぐに別れを告げても構わないとまで言った。ドラマの影響でも受けたか、二十歳前後の少女というものは外で恋愛もする時代なのだと、理解したつもりでいるのだろう。
今なら、まだ、本当に間に合うかも知れない。
西原との夜をまひるに打ち明けたことで、のはな自身も、以前ほど閉塞的ではなくなっている。自身を覊束してきたのはなは、まひるまで巻き込んでしまった。彼女との今の関係は、友人同士としてあるまじきかたちだ。
それにしても、のはなは自由になれるのだろうか。まひるの同情を手離してまで手に入れる自由は、果たしてのはなにどれほどの魅力になるか。