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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「岸田先生、今日もオシャレ」
耳に心地の良いメゾの声が、佳乃を束の間の回想から引き戻した。
くすんだピンク色のツインテールに、アーガイル柄の赤いジャンパースカート。白いモヘアの、首元に大きなリボンの付いたタートルネックのトップス。この短時間の内でいつの間に選んだのか、流れ星のヘアピンとバングルのピンクゴールドは、同シリーズのものと見える。相変わらず機能性を重視しないまひるの方が、よほど身なりに凝っているのではないか。
「私は適当だよ。清水さんこそ可愛いね。昨日のは格好良かったけど、私は今日みたいなのの方が好みかも」
「そうですか?有り難うございます」
「なるべく早く帰るね。心陽ちゃんにもたまには会ってあげて。鍵は置いていくから」
「あ、先生。私、そろそろ帰ろうと……」
これが学内に限る関わりの生徒であれば、佳乃はまひるを止めないべきだ。親は暴力を振るう類ではないし、父親を訪う借金取りや、両親の喧嘩が睡眠妨害を及ぼすだけで、実害もない。
しかし彼女は在校生でもなければ、佳乃の大事な恋人が懇ろにしている少女だ。正直なところ佳乃も詳しくは知らないが、陽子曰く、まひるをあの家にいさせておけないという。せめて母親が戻るまで保護しておかなければ、佳乃が恋人に幻滅される。
「お母さんは帰ってくるって?」
「しばらく戻らないみたいです」
「じゃあ、清水さんもここにいてよ。私、一人暮らしだから、部屋が明るくなって良いんだよね」
「…………」
「他に助けないといけない生徒、いるよ。もっと大変な子達はたくさん。でも清水さんは、陽子のお気に入りだから。恋人として、無責任なことは出来ないんだ」
「好きなんですね、陽子さんが」
「うん、大好き。それに清水さんの学費出してるのって、丹羽さんでしょ。恩返すなら親じゃなくて、そっちだと思う。のはなちゃんのためにも、もっと自分のこと考えるべきだよ」