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自由という欠落
第10章 貴女という補い
我ながら穢い人間だと呆れる。独善的で押しつけがましい。こうも人間の欠点を掻き集めた佳乃の説教に、反撥しないまひるにも感心する。ここで反論出来るほどの少女であれば、世話を焼く手間も省けていたのに。
いつの間に、狡い大人になったのか。
まひるにはのはなとの仲を促して、心陽には未だ激励する。
心陽がのはなと望み通りの関係になる予感がしたのは、本当だ。それが学祭に招かれて、いざまひるとのはなを並べて見ると、ゴールデンウィークに旅先で会った時に比べて、二人の仲は深まっていた。この半年間、何をしていたのだと、心陽をなじりたくなったほど、のはなのまひるを見る目が変わっていた。手探りで接する他人を見る目から、片想いでもしている少女の目へ。
のはなが婚約解消したがらないのは、まひるの気を引きたい所以ではないか。そうとまで疑る。心陽は二人から距離を置いている。他人の痴情に興味はないのに、心陽が佳乃の耳に入れるから、概ねの事情は知っている。まるで傷の舐め合いでもするように、まひるとのはなは肉体関係を続けているらしい。共に暮らしているとこうも無垢で、着飾ることにしか執着のなさそうな少女がだ。悲劇の令嬢に同情して、縋って、陽子や佳乃が物理的に救おうとする以前に、のはながいなければまひるはとっくに紬の件でくずおれていたかも知れない。そしてのはなを支えるにも、心陽ではいけなかった。
のはなが結婚を約束している男は、確か、西原篤といったか。これも、聞きたくもないのに心陽から得た情報だ。
「…………」
「先生、七時です。今日、授業の準備に時間かかるんですよね」
「…………」
「岸田先生?」
「…………。あっ……」
背筋の凍る思いがした。さっと血の気が引くとは、こうした感覚を指していたのか。
つと反芻した西原篤という男の名前が、佳乃の中で引っかかった。数年前にも、この名を聞いた覚えがある。