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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
のはなは、体調不良とはほど遠い、いっそ芳しいほどの様子だった。化粧は完膚なきまで彼女の目鼻立ちを可憐にあどけなく引き立てており、胸まである黒髪はヘアアイロンの緩やかなカーブ。白地に花柄のワンピースには、春先らしい厚手のカーディガンを重ねた上、王冠のネックレスが煌めいている。身支度しながら半日を過ごしていたらしい。
三人は坂木の運んできたローズティーを飲みながら、とりとめない茶話をした。同じ学部のまひるはノートのコピーをのはなに渡して、心陽はのはなに間断ない賛辞を浴びせる。
女子が三人も集えば定式の、恋愛話が始まった。心陽は、のはなに交際相手がいるか、想いを寄せる相手がいるか、彼女の不在時、ことあるごとに気にしている言動を見せていた。ここで本人に確認する気になったようで、彼女はまず口火を切った本人らしいアプローチに出た。
「お姉ちゃんは、女の子の方が自分を幸せにしてくれるって言うの。今は一人暮らしをしていて、当時、好きになった先輩をマンションに連れ込んで、夜通し口説いたんだって」
「はるちゃんのお姉さんらしいわ。はるちゃんも、好きな人が出来たら、そうやってまっすぐ突き進んでいきそうだもん」
「……っ、そう見える?」
「心陽はまっすぐだと思うよ」
「はは、……私は男もいけるつもりだったけど、学校じゃめぼしい人いないし、そろそろ女の子から候補見つけてみよっかな」
「その人は幸せにしてもらえるんでしょうね」
のはなの他意ない肯定が、刹那、心陽に否定を突きつけた。
まひるが心陽に翳りを見たのは、彼女のあるかなかったかほどの沈黙をあまりに深く捉えたからか。
のはなは自身の浮いた話をしたがらなかった。まひるも、こうした場で披露出来るほど甘くきらびやかな話を持ち合わせていない。