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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
 


 夜の七時を過ぎても、丹羽が帰宅する気配はない。のはなの話によると、今夜は取引先の重役と、酒の席での会合を予定しているらしい。


「まひるとはなちゃんも、夕飯、食べていかない?」

「お母さん帰るでしょ。お邪魔しちゃう」

「おばあちゃんと旅行中だから」

「ということは、のはな一人?」

「うん」

「じゃあ、心陽一緒にいてあげて。私帰るから」


 
 のはなの父親、丹羽は、昼間こそ甘いコーヒーを飲んで目尻に皺を刻む男だが、酒が入ると饒舌になる。先代から引き継いだ事業を拡大したのだとか、数年前は従業員の待遇も今では想像つかないほど良かったのだとか、話の種は男特有な得意話。鼻を赤くした雇い主に、必要以上に会う気になれない。


「待って、まひる。私も」

「用事?」

「そうじゃないけど、悪いし。坂木さんだって準備大変だろうし」

「私は良いのよ、本当。いてくれた方が嬉しいし。まひるも」

「ごめん、今日早く帰るって言ってあったから」

「うーん……はなちゃんがそんなに可愛い顔で引き留めてくれてるなら、一人で留守番させちゃ胸が痛むかな……」


 心陽が、メールを打ちながら上げかけた腰を下ろした。まひるからすれば、やはり彼女は姉だという人物より遥かに消極的だ。のはなは、本当に食事の相手を得ただけの、屈託ない笑顔で友人を見つめている。



 のはなや坂木に挨拶をして、邸宅を出た。

 まひるが訪うのは二度目になった、深窓の令嬢が起臥する城。
 ファッション誌の撮影セットを写し取ってきたかのような部屋は、相変わらずのはなに合っていた。事実そうであるように、彼女のために存在しているも同然の部屋。心陽ほど部屋そのものに希少価値は見出せなくても、あの部屋から、両親が彼女にかける愛情がひしと伝わる。
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