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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「静かでしょ。こんな開放的な気分になれるのに、人間が簡単に踏み込める場所だなんて、ぞっとするわね」
やはり佳乃の語った人物像と、実際の紬とは別人だ。
心陽は、ここまでの道のりから平地までを整備した過去人に感心した。進化した文明に慣れた彼らも、たまには自然に向き合いたくなるものなのか。
「貴女に見せたかったの。私が引きこもってばかりじゃない証拠。それにこういう青臭いところにいると、まひるちゃんと食べていたお昼ご飯を思い出す」
「そうなの?」
「私達、いつも裏庭で会ってた。誕生日にヘアピンをつけてあげた話、したでしょ。あの時も」
「ああ、……」
「最初で最後だったんだ。来年も、またその来年も、なんて。呑気なこと考えていたな」
淡白に呟く紬の目は、懐かしく愛おしいものに焦がれるような潤沢を湛えていた。
件の恋人は何でも似合うような子だったから、プレゼントを選ぶのも楽しかった。彼女にしては珍しいほど柔らかに話す紬は、心陽が今まひると繋がっている事実を知れば、どんな顔を見せることか。
「まひるに会いたい?」
「私の顔なんて忘れてるでしょ」
「覚えてたら、会いたい?」
「…………」
永遠のように長い時間を置いたあと、分からない、と紬は答えた。
「心陽ちゃんだっけ。貴女、私を幸せにしてやるって言ったわね」
「うん」
「これを見ても、私が幸せとやらになれると思う?」
「あっ、紬さ──…」