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自由という欠落
第2章 囚われの小鳥
* * * * * * *
家主の戻った食卓は、蜜を滴らせた歓談の花とデザートの余韻を残して、ひと段落ついていた。花盛りの少女達と優れた家政婦、なごやかな顔触れに混入した中年男は、甘い匂いをひと思いに一掃しよう破壊力を携えながらも、当の丹羽はアルコール臭を散らしながら、娘の友人を歓迎した。
「一緒に留守番をしてくれていたんですか。有り難うございます。のはながお世話になっています」
「初めまして。こちらこそ突然お邪魔してしまいまして……」
「また来て下さい。六年も寮に世話を頼んでいた娘なので、何分、世間知らずですが、貴女のように良いお友達が持てて安心しました」
丹羽は、心陽を砂漠で発掘した宝石よろしく、愛娘との縁を喜んだ。そのくせこの過保護な父親は、娘の高等部時代の自慢を始めた。酒が入っていた所以もあって、初対面の女子大生を相手に、のはなが寮の新入生歓迎会では毎年役員を務めていたことに始まって、友人は成績上位の生徒が多かったこと、夏休みの帰省中、声楽の家庭教師をつけて以来、文化祭では選択教科の音楽クラスの出し物で、毎年ソロを務めていたことを長々と。
心陽は、丹羽に律儀なまでに懇篤な相槌を打っていた。のはなの方があまりに早く痺れを切らせた。何より羞恥が先走って、心陽の門限が気になったのもあって、とうとう父親の長話を打ち切らせた。
「ご馳走様」
「ごめんね、引き留めて。お父さんがごめんなさい」
「はなちゃんのことが知れて楽しかった。本当にすごいお嬢様なんだね。惚れそう」
「送って行きたいけど……、運転手さん本当に必要ない?」
「そういうのはいないのが当たり前だから、私。じゃあね、お大事に。また明日」
「おやすみなさい」
のはなの片手と心陽のそれが、重なった。軒先での別れの握手。じゃれあい。