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自由という欠落
第10章 貴女という補い


「あの女と縁を切れ」


 西原の口振りは、いつかのはなの観たドラマの中で、配偶者のこしらえた夕餉を気に入らなかった亭主が出前を取れと命じた時の口振りを、彷彿とさせた。


「俺がお前のことを考えている間にも、お前はちゃらちゃら友人と遊びの約束か。のはな、子供じゃないんだ。主人に養ってもらう妻となる以上、お前も女としての務めに専念しろ」

「…………」



 そうだ、のはながまひると最後に交わしたLINEは会う約束。それで身体の奥深くから濡れていた。みだりごとに浸らなくても、会える、それだけで煌めくような期待に顫えた。



「ぐずぐずするな!この淫乱な道具に俺のものを咥えた姿で、あんなくだらない娘とは別れを告げろ!!」

「っ…………」



 トークページを開くと、思わず指が動いてしまった「助けて」の文字が消えていた。音信の絶えたのはなを心配してのことだろう、新たに届いていた一件も、既に開かれた形跡がある。


 のはなは文字盤に指を置く。

 西原の言う通りだ。自分は今、一糸まとわぬ姿になって、欲望の滾りを下半身に咥えている。西原の一部を飲み込んで、飲み込んで、それでも尚、この男はのはなに彼自身の体液を放つ。

 まひるに触れられる度、幸福だった。丹波の娘を想う気持ちは信じている。しかし、のはなは西原から解放されたところで、本当に何もかもなかったことになるのか。のはながまひるに与えられるものは、何だ。のはな自身のものかも危うい、穢れ果てた肉体だけではないか。
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