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自由という欠落
第10章 貴女という補い

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けたたましく連打されたインターホンに弾かれるようにして、つい相手を確かめないで扉を開いた。息を切らせた心陽が、まひるに飛びつかんばかりに詰め寄った。
「はなちゃん知らない?!」
どれだけの距離を走ってきたのか、普段は抜かりないはずの化粧が溶けている。それに心陽の、おそらく形状記憶だろういつでも同じ具合に巻いた茶髪の毛束も、思い思いの方向に散って、乱れていた。
まひるが穏やかな時を過ごしていたのであれば、まず心陽を宥めて、彼女の狼狽の経緯を訊いていたろう。しかし突然訪ねてきた友人の問いを先に聞いた途端、いよいよ焦りがピークに達した。
「心陽も知らないの?のはなどこ?!」
午前中、LINEを使って会話していた。一人で留守番をしていたのはなは、それでも部屋にいたらしく、今日は平日だ。少なくともあんな時間に西原が訪ねていくとは考え難いし、のはなに変わった様子もなかった。それが突然、返信が途絶えた。既読だけは付いたのにである。
まひるは心陽を部屋に上げて、スマートフォンの画面を見せた。寝落ちの可能性を考えられるだけの期待はあったが、心陽は何か言い淀んでいた。大抵の事柄に関してははっきりした物言いをする友人なだけに、心なしか顔色の悪い心陽が口を開きかけては閉ざして、閉ざしてはまた開きかけてを繰り返していると、まひるからしても気味が悪い。まひるは心陽のスマートフォンからもトークページを確かめた。彼女の方には既読がない。のはなに限って見落とすことはないだろう。それもあってか、もはや恐慌状態とも言える心陽の様子は、やはり不自然なものだった。

