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自由という欠落
第10章 貴女という補い

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 人は見かけによらない、とはよく言うものだ。

 一見、単純明快な理屈のようで、根拠もない綺麗事は、口先で肯定するだけであれば容易くても、現実には大概の人間が一笑に付す迷信だ。

 心陽も例にもれない。

 誰からも愛される無邪気な気性に、好きなものを好きと認められる天衣無縫な精神、加えて家庭円満で裕福な生家。いつでも朗らかに笑うのはなを見て、誰が彼女をおびやかす背後の闇を疑ぐることか。
 まひるにしても同じだ。十人いれば七人ははっと振り返るだろう容姿に、裏口入学だったろうにも関わらず、その成績は、心陽の周りにいる猛勉強家達に引けをとらない。着道楽を気取って遊んでいるように見せかけていても、過不及なく机に向かっているはずなのに、心陽の生まれつきいなせな容姿は可愛い洋服がそれほど似合うわけでもなく、また、努力の割りに、学力にも限界がある。のはなとの関係を知った時、友人にいだくべきでないと自制しても、悋気しないではいられなかった。のはなを愛していたのはまひるではない、自分なのに。婚約者の存在を知って、ただ諦めただけなのに。

 心陽は何も知らなかったのだ。

 恵まれているように見えていた二人が、逃げ道まで諦念して、終わりを待つだけだったことを、知らなかった。
 表層に目を細めているだけだった。婚約者がいる、それを幸福だという先入観を最初に持とうと決めた人間に、逆恨みしたい。顔や頭さえ良ければ人生が保証される世界など、もとより上手く出来すぎている。


 もう信じない。見えているものだけを信じていて、ろくなことなどなかった。
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