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自由という欠落
第10章 貴女という補い

「お楽しみのところ、失礼致します。先ほど別室で事故が起きました。警察が事情を伺いに参りますので、捜査にご協力いただけませんでしょうか」
「俺はずっとここにいた。女も出られる姿ではない、帰らせろ」
「お客様の潔白の証明のためにも、お答え頂きました方が良ろしいかと存じます」
扉越しに男の舌打ちが聞こえた。隙間が出来た瞬間、心陽は扉枠にいた男の脇に滑り入って、部屋に駆け込む。
「はなちゃん!!」
「くそっ!嘘か!どいつだ!!」
耳障りな声が、後方でがなり立てている。
構わない。心陽は並んだ拷問具の一角に目を留めるや、喉から悲鳴が上がりかけた。
最初にのはなを探したのは、鉄格子の中のやたら広い寝台だった。しかしそこが無人だと分かり、部屋を見回したのだ。
おどろおどろしい内装は、赤みを帯びた照明さえ、かつてここで性的嗜好にそぐいもしないで凄惨な目に遭った人間の流したものに思えてくる。もっとも、それは心陽の偏見だ。
ともかくのはなの姿はあった。
天使の輪を戴いた黒髪に、所どころに花びらが散ったように紅潮している雪のごとく白い肌。表情をなくした清らな顔。…………
のはなは変わり果てていたが、そのどれもがのはなを形成していたものだ。
少女は両手首を吊り上げられて、鉄の馬に跨っていた。脚と脚の間から、水音をまとう振動音が続いている。
「警察を呼ぶぞ!!出て行け!!」
白目を燃やした男が心陽に襲いかかる。
やはりまひるに任せるべきではなかったか。西原がこんな狂人であったなら、のはなの件で突き出すには十分だ。

