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自由という欠落
第10章 貴女という補い

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 紬を追いつめたのも、のはなを暴虐していたのも、同一の人物だった。

 人間の肉体を備えているという点においては、自分もあの男と同類だ。そうした事実に悪心さえ覚えながらも、まひるは西原の勤務地を訪ねた。
 名刺から、件の男の父親がトップに立つ本社に至るまでは容易だった。受付係は見ず知らずの訪問者が相手であっても、平社員くらい警戒もしないで取り次ぐ。


 無計画の行動だった。

 心陽の指示こそ頭の片隅に置いていたにせよ、公的機関はスキャンダラスで可視的な実害がなければほとんど動かない、なかんずく性的犯罪面はずぼらだ。事実、証拠品を出したところで保安組織が応じるのであれば、五年前、紬も陽子ももう少しは世間の理解を得ていたろう。のはなは正面から西原を拒めていた。
 もっとも今、心陽がのはなを迎えに向かった。西原が本性を隠すかは判らない。心陽に敵意を向けた場合を考えると、まひるが彼をおびき寄せるに越したことはないところだ。



 西原の担当している案件について、取引先とのトラブルが生じた。すぐに戻ってきて欲しい。

 まひるが協力を求めた社員の虚言が功を奏して、西原は血相を変えて帰社した。

 まひるは、ふっと胸の奥が冷めていくのを感じながら会釈する。


「お話があります。のはなの件で、配慮が足りませんでした。西原さんには色々とご迷惑をかけてしまいましたので、お詫びも兼ねて」

「ああ、お前も別れるつもりだったのか……。悪いが今は手が離せない。時間を改めてくれないか」
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