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自由という欠落
第10章 貴女という補い

加虐願望がある、とまひるの告白を受けた西原は、乾いた唇を不気味に歪めた。更に言えばマゾヒストに不足している、諸々の謝罪を兼ねても遊戯を共有してくれないか、と持ちかけると、この男は二度目の休み時間をとった。
のはなの両親の前や社内で張りつけていた顔は、西原から消えていた。
清廉な会社員の建前は、さしずめ精巧に作られたマスクではないか。
身体を重ねて悦び合う関係でもなければ、論をまたず恋人同士でもない。まひるは西原とビジネスホテルの個室に入った。
目的を考えればやはり移動を思い直したが、西原は部屋に着くなり浴室へ向かった。
軽率だ。西原から、いっそ不吉な感じさえする。
あれだけのはなに執心しておきながら、まひるがホテルに誘った途端、躊躇いもないのか。
不自然なまでに清潔な花の匂いがした。
西原がシャワーを終えていた。備え付けの寝間着にくるまれた洗いたての肉体に染みた、ボディソープだ。特別に苦手な香料が含まれているわけでもないのに、西原から香っているというだけで、まひるは思わず顔をしかめた。
「お前は良いのか」
「抵抗ありますか?私は西原さんにして差し上げる立場なので、脱ぐ予定もないですし」
「まぁ、俺は構わない。しかしな、いくら俺と近い趣味があったとは言え、所詮、女は男の物を咥えて初めて、快楽を得られる生き物だ。俺が形成を変えたがらないとも限らないからな」
「お気遣いは不要です。西原さんだって、される立場に興味をお持ちになったから、こうしていらっしゃったんでしょ。退屈はさせません」
西原は眉を動かすと、息を吸った。しかし不満は声になるまでに至らず、彼はまひるの指示通り脱衣した。

