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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「暮橋紬っていう人、知ってる?」
「っ……」
濁った二つの双眸が、瞠いた。
「彼女の友達、私知ってるから。答えによっては、こっちで火傷させないといけなくなる」
「お前……!」
「本気だから」
まひるの示した火を見る西原の顔色は、言葉以上に回答していた。この男は紬に心当たりがある。もとより心陽の早とちりでもない。同じ名前で同じ性癖の男がこうも近くに住んでいる可能性も考え難いし、何より心陽の見たダイヤ型の烙印は、まひるも知るのと同じものだ。
「っ……オェッ」
西原が顎を引いたとほぼ同時、まひるは蝋燭を喉に垂らした。舌をだらしなく伸ばして吐き気を訴える西原を横目にして、バッグから剃刀を引き抜く。
「答えてもらって、有り難うございます」
「な、に……を……」
「何でもありません。お礼に、喉の蝋を剥がすだけです」
「やめっ、ろ!!」
さようなら、そう言ってまひるは西原の喉にそれを突き立てる。
「あ……あ"っ……あ"……っ」
この男の声を聞くのも、これで最後か。
もっと早くこうしていれば、独尊的な欲求も醜悪な嬌声も聞かなくて済んだのだろうが、紬の一件は真偽を確かめないではいられなかった。ピンブローチが特別注文のものであっても、西原だけが所持しているとは限らない。それでも、あれだけの所業をなせるのは、西原くらいだ。もう躊躇うことはない。
「ガッ!!」
まひるが喉に切り込みを入れると、肉の塊が硬直した。こうも浅い切り傷に、何を恐怖しているのだろう。
「…………」