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自由という欠落
第10章 貴女という補い


 西原はヒューヒューと喉を鳴らしながら、ロープを引き千切らんばかりに総身を揺さぶっていた。目を剥いて歯をむき出す形相から、自身がこうした状況に陥った所以をいかに理解していないかが分かる。

 ずっとこうしたかった。紬を救えなかった、何も知らないで、支えようとも出来なかった、せめてもの償い。

 まひるは紬とプラトニックな関係だったが、人間同士のまぐわいがどういったものであるかは既に知悉していた。紬が受けた苦痛が死をしのぐものだったことも、その上で彼女が胸の内をまひるにひた隠していたのも。
 男を信頼するな。ただ、柔らかで甘い、恋人同士の口約束を交わしたあの昼下がりだけが、今でも切なくまひるを包む。


 紬は、柔らかで甘いものだけをまひるに与えていた。
 人間の醜悪から、冷酷から、ことごとく守ってくれようとした紬を壊した元凶だけは壊さなければ、罪悪感だけがあとを絶たない。



「私が加虐趣味なはずないじゃん」


「──……」


「あんたみたいな異常者と一緒にしないで。生殖器にしか神経集まっていないクズが。男が回してきた社会だから、こんなんなんだよ。ろくな歴史も築けたことない、快楽だって身の周りの世話だって、女を搾取して生きてるだけの寄生虫だよ。力ずくで金だけは儲けてきたかも知れないけど、その結果、落ち度を皺寄せしてきたよね。結局、何も出み出せない。無駄に人口と筋力だけあったのが強運だっただけなんだ。そんなあんた達男を知れば、確かに人生変わっていたかも。のはなみたいに」


 のはなのように生かされているだけの、誰かの玩具になっていたか。ずっと死人のような目をして。


「でも終わらせない。のはなの人生は終わらせない。あんたのこれが使い物にならなくなれば、せめてあの子は──…」


 のはなは救われない。こびりついた西原の影は、生涯、払えない。

 それでも自由にはなれる。心陽が彼女に寄り添ってやれると信じている。
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