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自由という欠落
第10章 貴女という補い
西原の黒い模様を描いていた肉体は、濁った赤に染まっていた。脈に至らない程度にまで刃を入れた皮膚がどれだけの痛みを得たかは、分からない。西原は目を剥いて、相変わらず言葉を発しない。傷自体は浅い。十分な呼吸はあって、それでいて初めの内は抵抗していた肉体は、おりふし苦痛を訴えるだけだ。
他人にこれだけ危害を加えられたとは、まひるは自分でも信じられない。
ただ、陽子が買い被るほど、まひる自身は周りを信じていない。
法は西原を断罪しない。紬とは元に戻れない。そしてまひるは、他人のために頑張れない。心は、とっくに紬だけに向いていたのに。夢見た彼女との嚮後を砕いた西原を、もっぱら恨んでいただけだ。それは紬のためでさえない。
まひるは鉄のペニスカバーに、点火したガスバーナーを置いた。西原が猛烈な勢いで頭を振る。まひるが人間として認識出来ない肉の塊が救いを請っても、当然、同情は湧かない。
ペニスの焼ける匂いが上る。花の匂いは消えていた。皮膚の焼け爛れるのが分かる。屠殺場もこんな気体が充満するのか。