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自由という欠落
第10章 貴女という補い
そうした制裁を現実に加えられるだけの覚悟があれば、まひるは悔いの一つくらい、回避出来ていたろうか。
西原がシャワーを浴びている内に撮影したピンブローチの写真を心陽に送って、まひるはホテルを後にした。
ロープやら拷問玩具だのを本当に準備しておけば良かったと、にわかに頭をよぎったが、のはなを犯罪者の友人にするわけにはいかない。陽子や佳乃に迷惑もかけられない。男の肉体に触れるのも、さっきの社員だけで十分だ。
心陽に聞かされた場所を求めて、まひるは電車に乗った。急行車両の車窓を眺めている内に、清々しい思いが身体を軽くしていった。
駅に降りると、驚くまでにのどかな土地が広がっていた。
一面に広がる田んぼに、山。点在している民家や商店。
青い空に引き寄せられるように歩いていくと、枯れ木の囲繞する湖があった。微生物か苔が覆ってるのか、水面は緑がかっていて、底は見えない。
暮橋先輩…………。
あの優しく清らかな人は、こうも美しい場所に腰を落ち着けてしまったのか。たわやかで穏やかな風がそよぐ、ここは紬に似合っている。片やまひるに似合わない。
あらゆる感情の混在する、永遠に生まれたてのようにきららかで変わらないものは自身で守っていくにも困難な、そうした世界に、紬といつまでもいたかった。あの時分、根拠もない希望があった。あの盾を二人で一つ支え持って、いつまでも見つめ合っていたかった。
もう一度、紬に会えたら。
今日までにも何度、まひるは想像したことか。夢に紬を見て、あまりにご都合主義な幻の中で、とうに彼女と生涯を誓った空想に耽ったことさえある。その時でさえ枕を濡らした。別れないでも別れても、辛いのには変わりないのだと思い知った。
今また願っている。もう一度、紬に会えたらどうしたいかを考えている。
変わらず愛していると伝えたい。貴女のために生きてきたから他の誰も愛せないと、伝えたい。
まひるはあの頃、紬だけが消えた場所にたった一人とり残された。あの場所から走り出して、今の彼女に、とめどなく溢れ出していたものを余すことなくぶつけたい。
思春期の恋は一過性だと大人達が決めつけるのは、傲慢だ。幼い恋の行く末は、けだし影を潜めるか潜めないかというだけで、少なくともまひるにとっては最初で最後のよりどころだった。