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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「はるちゃん……私は……」
「友達で十分。はなちゃんはまひるを好きでいて。でも、はなちゃんを見捨てたくない。もうあんな風に、一人で危ない目に遭わないで」
「…………」
「ごめんね。幸せそうだって、ずっと誤解していたから、あの男のこと知ってたのに、疑いもしないで、 私ははなちゃんが好きだったけど、好きな分、邪魔したくなくて幸せになってくれるに越したことはないって思ってて。全然分かってなかったね。私にとって、はなちゃんは人形か妖精さんか何かだったよ……」
一目惚れなど恋に恋しているだけだ、いつかの舞台で、ヒロインがそんな風に主人公の愛の告白を無下にしているシーンがあった。のはなはそうとは思わない。心陽はのはなと初めて話した春の日から、否、言葉を交わしたあの数分前から、既に感じるものがあったのだという。
彼女の言葉を借りたとすれば、のはなとてまひるには似た感情を持っていた。丹羽がまひるを招いた日、のはなは初対面の少女の容姿にはっとした。それ以上に、まひると二言三言を交わして、彼女の雰囲気、物腰、口調、今思えば、不可視の何かに雁字搦めになっていた。理由はなかった。仮に父親の紹介した少女がまひるとは別の人物であったとすれば、自分の趣味に付き合わせてまで、交流を図ろうとしたろうか。ただでさえ他人とのコミュニケーションは不得手なのにだ。相手がまひるだったから、観劇に誘った。何か共通の話題を求めた。
心陽がのはなと出逢った瞬間、恋と呼べる感情を見出したと話したところで、対象が自分であったことには驚きこそすれ、仮にのはながありきたりの少女であったとすれば、何ら不思議はなかったろう。
「はるちゃん、有り難う。でも私は見た目だけだったかも知れないわね。可愛くもないし、はるちゃんの思ってるような、……少女って、言えるかも……」
「あいつのことならノーカンにしよう?はなちゃんにあんな趣味があったわけじゃないでしょ」
「…………」
「むしろあんなのにも優しくしてあげていたはなちゃんは、やっぱり天使。お姫様。妖精さん」
「滅茶苦茶、だわ……」