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自由という欠落
第10章 貴女という補い


「あんっ、あ──……あっ、はぁっあっ……っっ」

「紬先輩、ほんとに、痛かったらごめんなさい……」


 大好きです。愛しています。



 何故、言葉には限りがあるのだ。想いに足りるだけの言葉が、ここには存在しない?


 紬から、次第に緊張の糸がたゆんでいくのが伝わってきた。
 恥ずかしげにまひるを見つめて、かつて上級生と呼び慕って、かつて恋人と呼んだ少女は、躊躇いがちに腰をくねらす。吐息は切なげな音を帯びていく。


 生きたくない、生まれ変わりたくもない。

 絶えず根づいていたニヒリズムに、今は炫耀が滲んでいる。

 満たされているからだ。紬に出逢えた自分が好きで、紬のものである自分が好きだ。手を繋いで、次の朝日を見ることもなく、紬と知らない場所へ昇ってしまうとしても、怖くない。紬が望んでいれば、その隣にはまひるがいる。まひるが望んでいれば、その隣には紬がいる。



「ぁっ、んっ……」

「紬先輩、可愛い……」


 まひるには紬を自分のものにしたという感覚はない。

 よく、「私の彼女」だとか「私の彼氏」だとか聞く。仮にまひるが紬と街にも出かける、ありきたりな恋人同士だったとしても、この言い回しはしっくりこない。


 補いだ。


 足りなかった部分を埋めてくれた、ただ大切な人。もっぱら愛おしい人。不可欠な人。



 人間は不羈を望む生き物だ。他者を掌握したがる生き物でもある。

 他人に不可視の枷を嵌めてでもおかなければ、けだし不安に襲われるのだ。
 西原のように、女を支配して蔑んでしか、自身の力に確信が持てない男の粗末さ。不要な規則や偏見、価値観に従い合わせることでしか、結束を実感出来ない家族の儚さ。交流の深浅関係なく、友人同士の輪においてさえ、話題やら流行やらという統一材料を蔑ろにしていれば、排除の対象になることもある。…………



 こうも不自由な現実で、もし、心から尊重したい相手にまみえたとする。時として目の届かない場所にいて、全ての知悉は不可能としても、繋がっていてもいなくても、無条件に信じられる、そんな、慕える相手と関われたとする。



 それは移ろいやすい世界にいて、変わらず自身が自身を見失わないでいられるための、手がかりになりはしないか。







最終章 貴女という補い──完──
Next epilogue...?
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