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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「もう少し飾っても良かった思うわ」
食卓に着くと第一声、佳乃が陽子の頭の天辺からつま先までを評価した。
三つ葉とラディッシュが色鮮やかなサラダにトースト、ケチャップで顔文字が絞ってあるスクランブルエッグに、ミントを閉じ込めた氷のたっぷり入った水に、熱い珈琲。
佳乃の睡眠時間が心配になる塩梅の献立に、ひとまず両手を合わせると、陽子は恋人の説教を免れるべく、慎重に言葉を選んでいく。
「卒業式に出席するのよ。主役は学生だし、佳乃こそ派手すぎないかしら」
「私は教師として、保護者がこんな格好で来賓席に来てくれたらな……と思う格好をしただけ。子供や姉妹、兄弟の、晴れ舞台でしょ。形から喜ぶのは当然だと思うわ」
「TPOは?」
「校風によるでしょ。心陽ちゃんは、式は白の姫系だよ。クリスマスシーズンに出たやつ。謝恩会はピンクに赤の袴だし。陽子、灰色は謙遜しすぎ。それは貴女は何でも似合うけど、……好きならともかく」
陽子は珈琲を喉に流しながら、自分の洋服を見下ろす。白いカッターシャツに、灰色のジャケット。灰色のタイトなスカート。裾に黒いアラベスク風のフロッキー加工が入っているのは、陽子なりのこだわりだったが、確かにこれでは今から教壇に立ってもおかしくない。
今日は、心陽の卒業式だ。
あの強欲な妹は、陽子と佳乃にも出席するよう要求した。
否、彼女自身のためではないとも考えられる。奔放に見えて、実のところ陽子の華やかな妹は、姉以上に感じやすく、友人想いなところがある。