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自由という欠落
第10章 貴女という補い
「ま、陽子は心陽ちゃん目当てじゃない、か」
「えぇ?」
「卒業生の家族の特権を使って、本当はまひるちゃんの卒業式を見たくて、心陽ちゃんのお願い聞いたんでしょ」
「…………」
「それでも、昔の先生がお洒落な方が、まひるちゃんだって嬉しいと思うな」
ふと、トーストの味がしょっぱく感じた。
佳乃の口から、まひるの名前が出たからか。
一昨日も、陽子はまひると会っていた。話題の映画を観て、帰りにスイーツをつつきながら感想を交わして、過不及なく充実した半日だった。
まひるは卒業を間近に控えてもさして変わらず、くすんだピンク色のツインテールにロリィタスタイルが人目を引いていた。正確には、遠慮がちに振り返ってはとろんとした目を潤ませていた女達は、まひる自身に陶酔していたのか。
陽子とて彼女の表層に惹かれていた時分があった。凡庸な陽子からすれば月並みには収まりきらないまひるの存在感に憧れて、惹かれていた時分があった。
陽子は心陽の卒業以上に、まひるが学生でなくなる事実に実感が湧かない。彼女自身が現実味を覚えていないと話していたのだ。本人すら疑っているのに、第三者であると陽子が夢のように思っていても、仕方あるまい。
「まひるちゃん、もう立ち直れたかな」
「平気よ。心陽が手のかからない分、私が一生、まひるちゃんを見守っていれば済む話だから」
「やだ、私妬くよー」
話している内に、陽子は朝食を平らげていた。冷めかけた珈琲を飲んでいると、佳乃が二杯目を問う。もう一杯くれるか、と答えると、彼女は慣れた手際で茶色い粉末をカップに投じて、コンロに火を点けた。